2021年3月28日(日)、豊能町主催で「内発的イノベーション型まちづくりフォーラム」なるものが行われました。内発的……?イノベーション……?今どきな言葉にニブい私が、無謀にも参加してまいりました。
今回の会場は、豊能町役場本庁。登壇者、聴衆、コメンテーターがずらりと並ぶ様子がZOOMを使って即時リアルタイム配信されました。ZOOM参加は日本全国津々浦々から、しかも100名以上の満員御礼。全国規模で注目度が非常に高いイベントであったことを物語っています。
「内発的イノベーション型まちづくり」って何なんすか?
まず話はここから。えっと「内発的イノベーション型まちづくり」って、つまりはどういうこと?
公式チラシには
個人の内発的動機づけを尊重し、その可能性を地域で拓いていくことで、結果的に地域固有の内発的な発展を生み出していく
とあります。本会を拝聴してわかったつもりの私が、私なりの言葉で言い換えてみますね。
自分の《やりたいこと》を実現させようとみんなでワイワイやっていたら、いつの間にか地域のためになる活動に発展する現象
ということです!
注意:筆者が自分のIQに合わせて、独断で簡単な言葉に変換しています。事実を正しく理解したい方、詳しく知りたい方は、ぜひ公式動画や資料をご覧ください。
本会は「内発的イノベーション型まちづくり」を実践した豊能町、東京都港区、山形県置賜地域での実践事例が報告され、大学教授などのそうそうたる専門家がその成果にコメントを寄せる会でした。
すべてはあの頃から始まっていた
まずは、豊能町が推し進めてきた「内発的イノベーション型まちづくり」の事例について、豊能町住民部住民人権課長の浅海毅氏が報告。
豊能町が取り組んできた、まちづくりの軌跡についての紹介です。「曲がりくねって、ただいま。」のブランドメッセージづくり、トヨノノレポーター養成講座、トヨノノドリーム 、そしてトヨノノ応援会……。思い返せば、豊能町がシティプロモーションを掲げた2016年「豊能町魅力発掘隊」の頃から、ずっと地域ぐるみ・住民ぐるみで取り組んでいたんですよね。
そして、時を同じくして役場内に新設された「女性活躍室」の事業の一環として、本会のまちづくり様式で欠かせない人材育成事業「とよのわたし研究室」が始まったのでした。
「とよのわたし研究室」とは豊能町内の女性を対象に、全5~6回の講座を通じて自分の内面を振り返り、生き方を考えるプログラム。これまで3期にわたって50名近くの方が受講しました。この「とよのわたし研究室」に取り組もうと豊能町が決断したきっかけについて、浅海氏は以下のように述べます。
「豊能町には、すでに自分の力で活発に行動を起こしている方がたくさんいるけれど、一方で『自分は何をしたいんだろう?』とまず内省が必要な人もいます。むしろそういった方のほうが多いのではないか、と考えました。潜在的な可能性はまちの資産であるとし、すべての人に活躍していただけるチャンスを作るべき、と『わたし研究』に取り組むことにしました。」
次に「とよのわたし研究室」講師である、一般社団法人こころ館 代表理事 松原明美氏から、豊能町での実践をベースにした研究発表が行われました。松原氏は「内発的イノベーション」の名付け親でもあります。
これまでの関連記事
東南アジアでは常識?!まちづくりまで手がけるお坊さんとの出会い
「とよのわたし研究室」の構想と誕生には、東南アジアで活躍する「開発僧(かいほつそう)」とよばれるお坊さん達との出会いが深く関係しているのだとか。
開発僧は一言で言えば「まちづくりお坊さん」。「すべての人に眠っている可能性が必ずある」という基本姿勢で村人たちに教育活動を行い、結果的にまちづくりや学校づくりまで手掛けるそうです(何それおもしろ!)。
松原氏は海外へ飛び、開発僧に密着。どんなプロセスで地域を発展させているのか研究しました。見えてきたのは、
教育活動を通して、個々の潜在的な可能性が開花する
⇒その人のアイデンティティが確立する
⇒人の役に立つことが自分の喜びに。「自利利他の精神」が生まれる
⇒助け合い、支え合って地域を発展させていくなかで、結果として地域課題が解決されていく
という道すじ。これらの気づきをヒントに、2018年に豊能町・女性活躍室とともに「とよのわたし研究室」を発足しました。松原氏が話した「とよのわたし研究室」にまつわるエピソードで、個人的に印象に残ったものをいくつかピックアップ。
自利利他の精神は、ここ豊能でも
第一期受講生45名の研究テーマを分析した結果、全体の73%が開発僧の地域づくりと同様、自利利他の精神に関連するテーマだったそうです。
例)人の役に立つことが自分の喜び、周りの人や地域で暮らす人の役に立ちたい・応援したい。
「わたし研究」で自分の課題を探求・解決したことによって、こころの余裕ができ、他者や地域を思う気持ちが芽生えたのではないか、と松原氏は言います。
夢を叶えたら、なぜか地域の課題解決に繋がってたんだよね〜
「とよのわたし研究室」では、住民の実現したいことを具体化・具現化させる伴走支援も行われます。その結果、整理収納アドバイザーとして起業した人、DIYでコミュニティスペースをオープンした人、母親向けのワークショップを企画する人などが誕生。
これらの活動は、地域の課題を解決する側面も持ち合わせているのだとか。しかし彼女たちに改めて話を聞くと「やりたいことをやっているだけで、これが地域課題の解決になるとは思ってもいなかった」という意見が大半だと言います。
さらなる進化形を目指す「トヨノノ応援会」
そして昨年2020年、住民たちの《やりたい》を応援する町の支援制度「トヨノノ応援会」が開始。町にも良い影響をもたらしながら、個人の《やりたいこと》が実現するよう行政や専門家ががっつりバックアップ!
「とよのわたし研究室」と「トヨノノ応援会」、これらの取り組みを通じて、豊能町は『自分らしさを応援し合う町』というイメージが町内外に浸透しつつある、と松原氏は語ります。
このような過程を経て、町内の活動人口・関係人口は増加。個人の《やりたいこと》《あるべき姿》への追求が、やがて豊能町全体の活性化へとつながっていく。━━この一連の流れこそが豊能町の「内発的イノベーション型まちづくり」である、と結びました。
この方法論と成果は、他の人口減少・少子高齢化が進む地域にとっても先進的な事例であり希望。「これから他府県にも広がってほしい」と発表を終えました。
「内発的イノベーション型まちづくり」を有識者・専門家たちはどう捉えているか
会場には、松原氏のほかにもオンライン・オフライン合わせて3名の専門家が同席。それぞれの専門分野の観点からコメントが寄せられました。
まず、「わたし研究」に長く関わっている、今里滋氏(同志社大学大学院総合政策科学研究科ソーシャル・イノベーションコース教授)から。松原氏の長年の研究や、地域活性化ノウハウについて独自の視点を解説。
「ソーシャル・イノベーションというのは、そこで暮らしている人たちが変わらないと、いくら外部から補助金を持ち込んだり、コンサルティングを依頼しても起こらないんですね。『内発的イノベーション型まちづくり』というのは、そういった外からの補助や支援に依存するのではなくて、自分たちが変わる、そして変わるためのいろいろな仕掛けを作っていく。そういった部分にポイントがあると思います。」
幸福学(Well-Being Study)の研究者である前野隆司氏(慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科教授)からは「内発的イノベーション型まちづくり」と幸福学の共通点を中心としたコメントが寄せられました。
幸福について研究した結果、幸せな人には下記の4つの共通要素があるのだそう。
- やりがいがある「やりたいことを見つける」
- つながりがある「一緒にやる仲間を見つける・共鳴し合う」
- チャレンジ精神がある「実際にチャレンジする」
- 本来感がある「本来そうありたい自分軸を高めていく」
「豊能町の『内発的イノベーション型まちづくり』には、まさしくすべての要素がそろっている」と語りました。
山形や東京でも、豊能町と同じような現象が起こっていた!
「この取り組みの良さは、なかなか地域の中だけだとわかりにくいもの」と切り出したのが、東京都市大学 都市生活学部准教授の坂倉杏介氏です。
坂倉氏は「人のつながりを通じてまちをよくしていこう」と実験・研究した東京都・山形県での自身の取り組みを挙げ、豊能町の事例と共鳴するのではないかと紹介。
……いやー、この坂倉氏のお話がめちゃくちゃおもしろくってですね。筆者も豊能町の「まちづくり」に直接的または間接的に触れる機会があるのですが、ぼんやりと感じていたことが体系立てて言語化されている快感を覚えました。
個人的おもしろポイントと金言を挙げておきますので、ぜひ資料全文を読んでみてください。
- 「何もしなくてOK」な場所なのに、いい感じの活動を始め出す不思議
- 日本各地で多発!?結局何も始まらない「まちづくり講座」
- 「仕事か・家庭か」の真っ二つに分けるのではなく、その真ん中があるんじゃない?
- ただ“住所がそこ”なだけの「住む」まちから、暮らしや人生を楽しむ「暮らす」まちへ
- 否定されるとその先には行かないけれど、きちんと聞いてくれる安心できる人に話すと《やりたいこと》は深まっていく。「そうなんだ」と言われるとその先へ行かなくちゃいけない
豊能町と他府県・世界の事例を掘り下げていくパネルデスカッション
イベント後半は、モデレーターの井上亮太郎氏(パーソル総合研究所主任研究員)を交えた登壇者全員によるパネルディスカッションが行われました。
井上:「内発的に醸し出す」という松原さんのメソッド。自治体が事業として取り入れようとした場合、効果が見えにくい点が障壁になりそうですが?
松原:「まずはやってみる」というチャレンジングな事業としてスタートしました。初めから今の到達点を計画して、ハンドリングすることは絶対にできないですね。開始当初は理解されない中で、豊能町職員さんが基本姿勢として重要視していたのが「町民のみなさんの可能性を信じ切ること」。そのおかげで、行政と住民の垣根を越えた絆ができたのだと思います。
浅海:効果が見えにくいところは確かにありました。「人材育成」という事業で考えると、1年では絶対に効果は出ない、少なくとも3年はぜひ続けさせてほしい、と内部で議論を重ねたんです。実際やってみると、早ければ1年で行動が変わってくる人も出てきました。そういった動きや流れに合わせて「トヨノノ応援会」が生まれました。
井上:今後のまちづくりはどのように発展すべきでしょうか?
坂倉:成功している海外の事例を見ていると、「社会全体の財・公共性をよくしていく」ためにそれぞれの立場の人全員が責任をちゃんと持っている。自分の利益のみを最大化するためだけに動いてもうまくいくわけがないんですよね。イノベーションとは、みんなの間にある価値をどうやって作り合っていくか。縁側的、オーバーラップしている領域をもっと作っていく必要があります。全員が仲良しこよしじゃなくていい、ぶつかるところはぶつかって、相手のことをちゃんと理解し合って「じゃあどうしたらいいのか」という建設的な対話が、まちのそこかしこで生まれるといいなと思います。
今里:まちづくりはおもしろく、楽しくないとダメですね。義務や責任でやらされているのではなかなか発展しないと思う。おもしろくて楽しくて儲かる、お金が回る、というところが大事になってくるはず。
前野:研究者が仕組みを研究し体現し、「こんな良い事例があるよ」と発信することで、豊能町と同じような困りごとを抱える他の自治体がマネできるようになる。それがわたしたち研究者の役目です。
あとがき
見慣れたはずの豊能町役場がアカデミックな空間に変わった2時間半。
今はまだこちら側からは炎が見えないだけ。━━そんな、小さな情熱家を探し出し、手を差し伸べる方法や背中を押す方法を豊能町はずっと模索しているんですね。
個人の胸中から芽生えた小さな炎が、自分が住むまちへ、そして日本各地へ飛び火する。そんな瞬間を目撃したかのような感覚を覚えました。
*登壇者の役職はイベント当時のものです
2 comments
近頃わかりにくい言葉が増え、ついつい世間から遠ざかりそうになってしまいそうでしたが、“内発的イノベーション型まちづくり”≒『自分の《やりたいこと》を実現させようとみんなでワイワイやっていたら、いつの間にか地域のためになる活動に発展する現象』というところを読んで、すーーーっと頭に光がさした感じがしました\(^o^)/
ありがとうございます♡
はりつけて下さった所へもあちこち飛んで、さらに理解を深めたくなりました!
コメントありがとうございます。わかりやすいと言っていただき、ほっとしましたー!
単語はとっつきにくいですが、ひとたび「こういうことかな?」と端っこだけでも理解できれば、自分の町のことや自分の町と通じることばかりなので、とても興味深かったですよー🙂