一度、フライパンをコンロからおろして、ニンニクを余熱で焦げない程度に、揚げるようにするんです。
いつもの閉店前の時間帯に、その人は、トマトソースの作り方を、そんな風に教えてくれた。
トロントのカフェで働いていた頃に、来る日も来る日もニンニクとバジル入りのトマトソース作りをやっていた経験があって、その人はコーヒーを淹れる合間に、フライパンの扱い方を、手ぶりを交えて説明してくれた。
この町のカフェのマスターとは、いつもそんな他愛のないところから話が始まる。好きな音楽やコーヒー、本、映画、車、カメラ、焙煎機、オートバイ、靴、レコード、それに目指すべきライフスタイルやお店の経営など、コーヒーを飲みながらこれまでに話した事柄は、本当に多岐にわたる。たまたまの偶然で、先々代からのご縁があったのも、後で知ったことだった。
その日は、台所の道具になぜあれほど魅かれるのか、そしてお気に入りの鉄のフライパンでプレーンオムレツをうまく作る方法から、おいしい定番のパスタの話に及んだ時に、その人はそのトマトソースの作り方のコツを教えてくれた。
細かく刻んだニンニクを、少し多めのオリーブオイルに入れて、低温で、じんわりと、揚げるイメージで。ニンニクの香ばしい風味をオイルに馴染ませていきながら、細かく刻んだトマトを入れて、同時に塩気を含んだパスタのゆで汁を加え、かき混ぜて、乳化させるのがコツなんです。で、このソースづくりは応用が効いて、これを基本に、他の具材を加えてバリエーションを付けられると、とても便利なんです。
その人は、いつもの控えめそうな表情で、そう言った。
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休日になって、早速、材料を買いに行った。1.4mmのパスタにニンニクとバジルの葉とオリーブオイルを買ってくる。トマトはまだ、家の冷蔵庫の野菜室の奥に新しいものがあったので、それを使うことにした。
1.パスタを茹でるお湯を沸かしている間に、ニンニクを細かく刻んで、トマトとバジルの葉も小さく切っておく。
2.フライパンに少し多めのオリーブオイルをひいて、弱火でフライパンの温度が熱くなりすぎないようにしながら、フライパンを傾けてオイルの中でニンニクを泳がせるようにする。
3.ニンニクの旨みがオイルに染み出したら、刻んだトマトを入れて、つぶしていく…。
こうしてできたトマトソースのパスタは、絶品とは決していえないけれど、普段自分で作るものとはまったく違って、少しお店で食べるような、トマトの上品な酸味とバジルの爽やかな風味のとても美味しいものだった。
料理も、上達するように何度もやってみることが大事ですけど、少しワクワクする気持ちを抑えながらやるのが、楽しくていいのかもしれませんね。
と、その人は、はにかんだように少し笑って、そう言った。
4 comments
ラジオから流れるここちよい音楽を聴きながらコーヒーを楽しんでいるようなゆったり感・・・いいですね。
日ごろは手早くパパパッと料理を仕上げている忙しい人も、たまにはちょっと時間を作って、にんにくを細かく刻んだり、オリーブオイルの中で泳がせるように優しく香りを引き出したり・・・『コツ』を楽しみながら過ごせたら素敵ですね!
私もいちどやってみよう)^o^(
ありがとうございます。
手際よく料理が出来るようになることは、本当に憧れです。
準備と段取りという意味で、仕事と料理はとてもよく似ています。素敵な料理の出来る人は、きっと仕事も素敵なんでしょう。そんな風になりたいですね✨🙂
暮らしを彩るちょっとした工夫っていいですよね!人との会話や街の思い出を振り返りながら上質に近づけていく姿勢、すごく感銘をうけます。もともと無味乾燥な暮らしをしてただけに、その差の意味をすごく感じました。
ありがとうございます。
こうした楽しくて、味わい深い会話ができる人や場所って、町の魅力の1つだと思っています。それに、年を重ねるに連れて、こうした事柄が暮らしの彩りになって来ることを実感しますね✨