『株式会社 能勢・豊能まちづくり』
《トヨノノ応援会》に応募された21のプロジェクト一覧表の中に、こんな名前の株式会社がありました。プロジェクトの概要 は「再生可能エネルギーで地域を応援しよう」。
プロジェクトの代表者であり、《㈱能勢・豊能まちづくり》の代表取締役である榎原さんから届いた事前資料を拝読。すでに、能勢町と豊能町の公共施設へは、この会社から電気の供給が行われているというのです。電気をどこからどう買うかによって、誰かを応援できる、そんなプロジェクトをやりたいと考えている‥‥ということがぼんやりとわかってきました。
ところで、今回は代表の榎原さんにリモートでお話を聞かせていただきました。
能勢・豊能に電気の会社が!?
具体的には、どのようなお仕事をされているのですか?
電気の仕事には、①まず電気を作る人、②その電気を運ぶ人、それから③ 電気を使う人、がいます。その他に、①②と③とを結びつけて電気を売っていく人がいるのですが、僕のやっているのは、そこなんです。小売り、スーパーマーケットみたいな役割ですね。以前はこの役目(発電者と需要者をつなぐ仕事)は関西電力さんしかできなかったのですが、日本が電力自由化制度を導入したことによって、その部分の小売り事業は他社の参入が許されることになったのです。具体的には電気を必要としているお客さんを集めて、その人たちが電気をどの時間帯にどれくらい使うのかを予測して、 必要な電気を買ってきて供給する、ということをやっています。
発電して、その電気を、電線を引っ張って運んでくるお仕事、というわけではないのですね?
そうじゃないんですよ(笑)。
電気って、基本的には川のようなものだと思ってください。例えば豊能町の役場に電気を供給しているというのは、その川か ら支流を引いて役場の方へ電気を流しているというイメージです。
関西において電気はすべて同じ関西電力の川=電線を使って流れているんですね。先ほどの②の『電気を運ぶ』というところ は、関西電力さんしかできない仕事なのです。これは関西電力さんの中でも非常に公的な側面が大きい部署で、人々の安定した社会生活に重要な役割を果たすことなので、いろんな規制もかかりますし、国の事業みたいな感じになっています。 一方、『電気の小売り』というのは、みんなのために、できるだけ安く、いろんなサービスを組み合わせて、電気を届けるのが役割なので、僕らの仕事は、しっかりとお客さんを集めることと、発電事業者を集めて安く電気を送っていくこと、この2つなのです。
では電気の流れは今までと同じようだけれども、電気代を払う先が変わるということなのですね。実際はどれくらいの余剰が生まれて、お金が町のための応援に回せるということになるのでしょうか?
電気の販売価格は決まっているので、あとはそれをどれだけ安く仕入れ出来るかで利益が全然変わってくるんです。
僕らは、関西電力さんの電気料金メニューよりも安くすると宣言しています。つまり電気1kwhあたりの売り 値というのはもう固定されてしまっているので、それに対して、僕らは再生可能エネルギーなどのこだわりの電気をいかに安くその値段の範囲内で届けれるかというのが重要なところです。
一応、始めた時点では、地域で毎年一定の粗利が出せる見通しが立っていました。通常は、この粗利から人件費とか広告宣伝費とか、会社を運営するためのお金を抜いて利益になるのですが、僕らの会社は人件費とかシステム費ができるだけかからないように様々な工夫をしています。
電気を供給して、応援する資金を作る?
少ない人数で、会社が回っているのですね!?
できるだけ経費を少なくしてやっています。
実際、毎日30分ごとに予測しなければいけませんし、結構大変なのですが。「12時~12時半には、みなさんがどれくらい電気 を使います」とう予測を、毎日、前日までに出すのです。これに誤差があると、インバランスというペナルティ料金を払わないといけない。要は正確にきちっと予測することが大事なのです。
つい先日、卸売価格がすごく大きく変動して大変なことになったというニュースをテレビで見ました。電気の値段ってそんなに変動するのですか?
そうなんです、30分ごとに値段が違います。市場で取引されるのが、ここしばらく平均して1kwhあたり6円とか8円とか、高い時で10円です。それがこの冬は、昼間だけ でなく夜間も含めてずっと100円を超えたんです。一番高いときで250円くらいまで行きました。 僕らがみなさんに販売している電気は、1kwhあたり15円~17円。15円で売るために200円で買ってきているとなる と、これは大変なことになります。だからと言って、まちづ くりに対する投資をやめるつもりはないので今、一生懸命がんばって、別の事業もしながら何とかやってるところです。
豊能に“電気で応援する会社”を作ったわけは?
なぜ豊能町の《応援会》に応募されたのでしょうか?
たまたま2018年に、能勢町と豊能町から依頼を受け、こういうことをやったらどれくらいお金が回るんだろうかという調査を行いました。僕はもともと環境やエネルギー専門の調査会社(関連会社㈱株式会社イー・コンザル)を別に運営しているの ですが、この会社は地盤が関西にあるので、であれば、自分たちでやってみようよ!と始めたのがこの会社(㈱能勢・豊能まちづくり)なのです。だから、能勢町・豊能町さんと一緒にこのチャ レンジを始めたほうが、むしろ先だったんです。
その時、豊能町の担当部署の方が、《応援会》のお仕事をされていて「応援会に入りませんか?」と逆にアプローチをかけていただいたのがキッカケです。
いろいろな地域で調査活動をされた中で、この地域を選んでくださったということですか?
調査は、他の自治体さんとも行ったのですが、実際に事業としてはやらないという自治体さんが多いんです。「おもしろいね~、そういうのもあるね~」とは言うけれど石橋たたいてやらないんです。でも、能勢町・豊能町……今回は特に能勢町さんがぜひ挑戦したい!とおっしゃってくれたんです。
電気を使うことによって『応援する』……とは?
まちづくりに手軽にかかわれる手段としての『電気』
まずは公共機関へ電気を供給しておられますが、今後、一般向けの電力供給も進めて行かれる予定ですか?
一般向けの電力販売は2021年度、つまり来年度じゅうにはスタートさせたいと思っています。 僕らが目指している のは、どっちかっていうと、地域の人たちが、まちづくりに簡単に関われる手段を提供したいと思っているんです。
今《トヨノノ応援会》で素晴らしい活動されている方がいっぱいいらっしゃいますが、どう応援していいかわからない人も少なくないのではないでしょうか。
例えば、うちと電気の契約をしていただいて、ウエブサイトに《トヨノノ応援会》のみなさんの活動がずらっと載っていて「ここ、いいな!」と思うところをポチっと押して『応援する』と、みなさんの電気代の一部がそっちに行く。『応援』したところからは、時々、何か月かに1回くらいはレポートが入ってきて、「みなさんのおかげで、こんな活動ができました」って返ってくる…とか、何となく繋がっていくじゃ ないですか。
僕らは、別に電気事業がやりたいというわけじゃなくって。地域でほんとに困ってることとか、ローカルで人が減っていくようなコミュニティの中でもがんばってる人たちを、うまく繋げて、何か新しい可能性を一緒に作っていける手段として面白いんじゃないかと思って始めているのです。
地域の活性化や繋がりを 応援することを目的としているのですね。
今までは調査とか研究とか、シンクタンク(=頭脳集団、研究機関)みたいな形でいろんなことを提言したりするところで止まっていたんですが、第3者的にああだこうだと言うだけでなく自分もチャレンジして、そこで得たものを言っていかないと、言葉が軽いなあというのを感じていました。
豊能町、能勢町さんとさせてもらってる部分に関しては、地域に還元するモデルを作りたいと思ってるんです。僕らのこのやり方、能勢町・豊能町さんとやっているこのやり方を、他の地域でもできるような形=モデルにしたい、と
例えばもし1年間で1000万円利益が出 たとしても、人1人雇ったら数百万ってすぐ飛んでいっちゃいます。今僕らはほとんど人件費なしでやっていますが、もしこれを別の人たちが人件費込みで自分たちの生活費込みでやったら、もっと減ってしまいます。僕らは今自分たちで、他のところから引っ張ってきたお金で回しているので、やれてるんですけど、もし予測するためのパソコンのプログラムとか他のところに外注して作ってもらったりしたら、すぐ1000万とか2000万とか飛んでいくんですよ。
だから補助金の中で自分たちで開発したり、いろんなところに助けてもらいながら工夫しなが らやっているところです。みなさんが「僕たちが応援すれば応援した分だけ町はよく なるよね、それなら、別に極端に安くなくても、まちづくりのために電気で応援しようか」と思ってくれる人が増えてくればいい、完全に『価格勝負』になったら僕らは勝てません。ただ安くします!の競争になったら勝てないし、それは僕らの理念とは違うんです。
安い電気を供給するのが目的ではなく、それによって、町おこしに繋げていくというところが大事なのですね。
そうです!僕たちはそこを目指しているのです。そのためにも、自分たちが使った電気代が、町のために繋がっているということを、みなさんに感じていただきたいと思い ますし、そうすると町で活動している人たちも応援してもらってるので、なんかこう勇気出るじゃないですか。
こういうことを豊能町のためにやろうとするには、すごくエネルギーがいると思います。その原動力は、どこから来るのでしょう?
これからの10年20年って、エネルギーとか環境とか、地域の人口がすごく減っていく中で、今までにない変化を求められる激 動の10年20年だと思ってるんです。その激動の時代に、新しいことにチャレンジできるって、めちゃくちゃ幸せじゃないかっ て思うんです。今までになかった制度とか仕組みとかを作る立場にいられる、しかもそれを現場に一番近いところで、地元の 人たちと手を取り合って、こんなんやってみようやって言いながらやれるって、こんな楽しいことはない んじゃないのっていう感じで、ワクワクしています。
榎原さんのパワフルなプロジェクトのこと、よくわかりました。私たちが電気の仕組みについて知り、その電気の使い方を工夫することによって、豊能町をますます元気にするための応援ができるということ。そんな新しい里山地域モデルを、これか らみんなで作っていけたら素晴らしいと思います。今日は、詳しいプロジェクトの内容を分かりやすくお話しして下さって、 本当にありがとうございました。
榎原さんプロフィール
・1977年大阪府吹田市出身
・京都大学工学部卒業、同大学院へ
・在学中に国際協力NGOインターンシップ生としてベトナムで農村支援プロジェクトを担当、太陽光発電に出会う ・大学院を中退し英国レディング大学にて再生可能エネルギーを専攻、修士号取得
・民間シンクタンクに勤務後、2012年6月独立《㈱イー・コンザル》設立
・2020年《㈱能勢・豊能まちづくり》設立
(共著書に『低炭素社会に向けた12の方策』『エネルギーの世界を変える。22人の仕事』など)
◆ このプロジェクトの連絡先
株式会社 能勢・豊能まちづくり 榎原 友樹さん
Mail: tomoki.ehara@nose-toyono.com
◆ SUPPORT – 応援おねがいします
おすすめの地域プロジェクトや取り組みを教えてください
取材日:2021/02/09
文:とよレポみほ☆
写真提供:㈱能勢・豊能まちづくり