大阪府豊能町を拠点に、高齢者福祉、障害者福祉事業を行う社会福祉法人豊悠福祉会祥雲館。豊能町の福祉施設を活用し、誰もが暮らし続けられる地域づくりをめざす「祥雲館町おこしプラザ」プロジェクトとして、様々なイベントなどを展開中です。 社会福祉法人による地域づくりとは……?プロジェクトのきっかけや内容、想いなどについて、同法人職員の滝本弥生さん、美谷昌彦さん、上田直樹さんにお話をお聴きしました。
地域とともに考え、学び、遊び、ビジョンを共有する場を作りたい!!
── プロジェクトをスタートしたきっかけを教えてください。
平成24年、豊能町保健福祉施設「豊悠プラザ」での福祉事業を継承したのを機に、地域の方が今まで通り豊悠プラザに足を運び、共に学び成長し続けたいという想いから「祥雲館町おこしプラザ」を発足させました。
そして、「地域でヒト・モノ・コト(情報)をつなぐことで豊能町を元気にしたい」という目的を持って、プロジェクトをスタートしました。
── そもそもプロジェクトは何をめざしているのですか?
大きな目的としては地域を元気にして、高齢者や障がいのある方、子ども、子育て世代など多世代が暮らしやすい社会を実現していきたいと考えています。そのためにも、まずは地域のみなさんに「祥雲館町おこしプラザ」のイベントへ参加してもらいたいですね。そしてプロジェクトを通して、より地域に根差した福祉施設となることをめざしています。またイベントを、地域でヒト・モノ・コトがつながり、交流できる機会にすることで、豊能町が活性化する仕組みをつくりたいと思っています。
── 法人の職員さんの教育にもつながっているように思うのですが。
もちろん法人職員は介護など福祉の仕事がメインになります。でも、地域との関わりを含めた福祉の仕事へのやりがいや、イベントの企画・運営を通じたチームワークの必要性を感じてもらいたいです。そしてこのプロジェクトでの経験が、ケアの質の向上にもつながっています。
あと、職員がいきいきと働くことで、福祉の分野で働く魅力などを発信していければと思っています。
── プロジェクトの具体的な内容をおしえてください。
夏のイベント「森のフェスティバル」、秋のイベント「森の芸術祭」、ファッションショー「祥雲館TOYONO COLLECTION」の開催や、地域交流スペース「En-GAWA」の運営があります。
── イベントや地域交流スペースの活動が核になっているのですね。
はい。あとは、プロジェクトの原点ともいえる「笑雲Café」での活動があります。 もともと、福祉施設は敷居が高くて、閉鎖的なイメージが持たれやすいのですが、実はそうではないんです。そのことを地域のみなさんに知ってもらうため、地域と福祉施設がお互いに語り合う場として「笑雲Café」を平成22年度からスタートしました。
地域と一緒に企画・運営するプロジェクトの流儀
──「笑雲Café」はどんなことをしているのですか?
地域に近い場所で開催したいと思い、吉川自治会館を使わせて頂き、年4回程度開催しています。参加者は、ご家族を介護されている方や看取られた方、当施設の利用者さんのご家族、地域の元気な高齢者の方などです。身近な場での困りごとや必要な支援などについて話し合いをしています。
また、カフェで地域の課題やニーズなどを把握しつつ、参加者と一緒にイベントなどを企画します。例えば、介護予防の体操や、消費者被害の防止、台風や自然災害が多かった時は防災に関してのイベントもやりましたね。
最近は、東ときわ台の「En-GAWA」(令和元年11月オープン)を利用しています。
── その「笑雲Café」がプロジェクトの原点って、どういうことですか?
私たちの法人はイベント企画・運営が専門ではないので、地域のみなさんと一緒にプロジェクトを考え、実施しています。そのスタイル(流儀)の原点となっているのが「笑雲Café」なんです。
── なるほど。まさに地域一体となって活動しているんですね。
はい。特に、地元の吉川自治会や地域のボランティア団体、祥雲館ボランティア(施設ボランティア)のみなさんには、当初からイベントの企画を行う「企画会議」に参加してもらっています。そこで、イベントのテーマから内容まで一緒に考えて、様々なアドバイスなどもいただいています。
また、運営面での職員だけではできないことを具体的に伝えて、地域の方やボランティアさんにお手伝い頂いています。地域のみなさんと企画することで、イベント自体が地域課題の解決につながったり、ニーズにマッチした取り組みになったりします。
多様なヒト・モノ・コトのつながりと流れを創りだす
── それでは、イベントについてお聞きします。そもそもイベントのターゲットってそれぞれ微妙に違うんですね。
「笑雲Café」は、どちらかというと福祉に関心のある地域の方が対象になっています。実は、豊能町の高齢化率(全人口に占める65歳以上の割合)は45%を超えていて、大変高齢化が進んでいます。でも、介護保険サービスを利用する人は少なく、元気な高齢者の方が多いんです。その方々に、介護予防などの視点からアプローチできればと思っています。
── 夏のイベント「森のフェスティバル」、秋のイベント「森の芸術祭」の対象は全世代ですか?
イベントについては様々な世代が対象になりますね。特に、夏のイベント「森のフェスティバル」は参加者が水風船を投げあう「水ふうせんDEバトル」などもあり、子どもさんとその親世代がメインターゲットです。
秋のイベント「森の芸術祭」は芸術がテーマなので、子どもから高齢の方まで、まさに全世代をターゲットにしています。
── ステージでのパフォーマンスやワークショップなども開催されていますね。
地域で活動されている方の発表の場になればと思っています。昨年はコロナの影響で中止になりましたが、「今年はないの?」といった声も多く寄せられ、活動者の方にとっても大事な場になっているのだと感じました。また、ステージやワークショップでは、町内外のパフォーマーさん、クリエイターさんに協力していただきます。出演者同士のつながりが生まれて、他のイベントでも一緒に活動されているというお話もお聴きしました。
── イベントを通して様々なつながりが生まれているという感じですね。
はい。ほかにも、イベントには町内外問わず、様々な事業者さんに出店をお願いしています。
事業者さんは出店することで、新しい顧客をゲットできるかもしれませんし、特に町外から参加した事業者さんが、町内に店舗を構えてくれるとうれしいです。ヒト・モノ・コト(情報)の新しい流れが生まれたらいいなと思っています。
豊能町の財産「ヒト」が主役の「祥雲館TOYONO COLLECTION」
── 様々なイベントを実施しているのに、なぜファッションショーを企画したのですか?
もともと、「ファッションショーをやりませんか」というお話があり、平成29年と平成30年には施設内で利用者さんがステージに立つファッションショーを実施し、大変好評でした。あと、本当に介護のイメージを変えていかないと、介護の現場で働く人は増えないのが実情です。「小さなまちの社会福祉法人でこんな楽しいことをしている」という発信をしたい想いもあって、はじめました。
── 3年目にして、なぜ住民さんも対象にしたのですか?
施設内の開催を経て、職員から「もっと大きなホールで、地域の人も一緒にしたい!」という声が挙がりました。施設外で行えば、地域の方にも参加してもらえます。大きな企業もない豊能町はヒトが財産です。ファッションショーを開催することで、そのヒトをもっとアピールして地域を盛り上げられるのではないかと思ったので。
── ぶっちゃけ、町内でファッションショーを開催するって大変じゃなかったですか?
なかなかモデルさんが集まらなかったので、職員が魅力的だと思う人に「ステージに立ちませんか!」って、声をかけたりしましたね。あと、「笑雲Café」でも宣伝をしたら「私、出たい!」という方もいて、最終的には施設の利用者さんも含めて16組がステージに立ちました。
── 出演者一人一人にヒアリングをしたと聞きましたが……
普通のファッションショーは、デザイナーが見せたい服をモデルが着て歩くというものです。しかし、私たちはまずモデルを決めて、どんな想いで、どんな服を着たいか、どんな音楽で舞台に立ちたいかについて、しっかりとヒアリングをしました。
※「祥雲館TOYONO COLLECTION」の様子をレポートした記事はこちら
地域の誰もがふらっと立ち寄り、おしゃべりができる場
── 地域交流スペース「En-GAWA」についても教えてください。
当初は週4日、水・木・金・土曜日の10:00〜16:00に開放していましたが、新型コロナ感染症が流行しているため現在は閉鎖中です。地域のみなさんが新聞を片手にふらっと来てもらえる「地域のリビング」のように、自由な使い方をしてもらえたらと思っています。
── どんな方が、どんな使い方をしていますか?
意外と男性の利用も多くて、一緒にコーヒーを飲む目的で、毎週決まった曜日や時間に集まるグループもいらっしゃいます。誰もない時もあるし、大にぎわいの時もありますよ。
あとは、手芸好きな人から「ここで手芸を教えたい!」とか、料理好きの人から「友だちに料理を教えたいので、キッチンを使わせてもらってもいい?」という声もありました。福祉委員さんから「地域のサロンに使わせてほしい」といったお話も。様々なニーズに合わせて利用していただいていました。地域での交流、居場所づくりにつながる取り組みであれば、使い方は自由。スペースをお貸しして、運用はお任せしています。
── 福祉の専門職の方が相談にも乗ってくれるのですか?
法人のケアマネジャーや看護師などが、地域で気になることや自分・家族のことなどの相談に対応しています。また、普段のおしゃべりから、介護サービスなどの相談につながることもありますね。
── 今後はどのように使ってほしいですか?
現在は閉鎖中ですが、今後は開放時間を短くするなど工夫をしたいと思っています。1杯50円のコーヒーを販売し、「コーヒーを飲みに来てくださいね」ってお願いしています(笑)。比較的年配の方が利用が多いのですが、若い世代の方にも利用してもらいたくて、いろいろな構想、妄想が膨らんでいます。
── 構想、妄想を教えてください!(笑)
例えば小中学生のお子さんが宿題をしたり、トヨノノレポーターさんが集まって記事を書いたりする場所になればいいですね。Wi-Fiも整備しているので、喜んでもらえると思います。あと、私たちの活動を支えてくださっている地域のみなさんが、ICT(Information and Communication Technologyの略。ITを使って暮らしを豊かにする技術のこと)のスキルを向上させるための講習会などもできればと思っています。
私たちにできることは「福祉を感じてもらう機会」を提供すること
── プロジェクトの背景や具体的な内容、みなさんの想いなどをお聞きしましたが、今後についてはどのようにお考えですか。
プロジェクトの大きな目的は地域を元気にして、高齢者や障がいのある方をはじめ、子どもさん、子育て世代など、多世代が暮らしやすい社会を実現していくことです。そのためにも、地域のみなさんに福祉に関心を持ってもらうことも重要だと考えています。
── なかなかハードルが高いことだと思いますが、どうやって取り組んでいくのですか?
例えば、イベントで施設利用者さんとふれあう中で「こんなふうに施設で過ごしているんだ」と知ってもらえると思います。また、ボランティアとしてイベントに参加する施設利用者さんのケアをお手伝いいただき、福祉の仕事を体験してもらうこともできます。
あと、昨年のファッションショーでは、モデルとしてステージに立つ施設利用者さんが、衣装を着ていくうちに表情が変わる姿を見て、感動したという方もいました。
実際に見て体験してもらうことで、福祉を感じ、関心を持ってもらえたらと思います。
社会福祉法人である私たちにできる取り組みは、福祉を知ってもらうというより、福祉を実際に感じてもらう場・機会をしっかりと提供していくことだと思います。
── 最後に一言、読者へのメッセージをお願いいます。
祥雲館では様々な活動を展開していますので、気軽に参加して、福祉を感じていただきたいです。
また、何か挑戦したいという方、特技を活かしたい方、みなさんのチカラが必要です!一緒に地域を元気にする活動に取り組みましょう!
インタビューを終えて
インタビューを通じて、これまでの多岐に渡る活動、そして地域とともに学び・遊び・成長しようとする職員のみなさんの熱くて温かい想いにふれることができました。
社会福祉法人による地域づくり「祥雲館町おこしプラザ」は、これらの「歴史」と「想い」で形づくられ、これからも多様なヒト・モノ・コト(情報)をつなげていくことでしょう。
◆ このプロジェクトの連絡先
社会福祉法人豊悠福祉会 祥雲館 滝本 弥生さん
住所: 吉川187-1
Tel: 072-733-2301
Mail:koho@syownkan.jp
HP:https://shounkan.jp
◆ SUPPORT – 応援おねがいします
- 地域の交流の場を作る仲間
- イベントのオンライン化の協力
- 活動内容の発信のお手伝い
取材日・2021/02/13
文・北川淳也
写真提供・社会福祉法人豊悠福祉会祥雲館