長年豊能町で日用品店を営んできた中西商店。その2階に「仕事場」として会員制のコワーキングスペースを開設する改装工事が進行中です。1階にはおしゃれなカフェとしておなじみのEMMA COFFEEがあります。
豊能町に、どんな「仕事場」ができるのか。EMMA COFFEEで美味しいコーヒーをいただきながら、中西商店4代目の中西信一朗さんにお話を伺いました。
身近な人たちのために、おもろい人が集まる場所がつくりたい
── コワーキングスペースは、駅前などの立地のよいところにあるイメージですが、なぜここに作ろうと思ったのですか?
EMMA COFFEEには豊能町外からもお客さんが来店してくれていますが、その中にはフリーランスの方が結構います。身近なクリエーター5〜6人の顔も浮かんで、その人たちに場所を提供したら喜んでくれるかなと思ったのが最初ですね。この場所から新しい仕事が生まれたら面白いなぁって。
中西商店は、基本的に「〇〇さんの作業着のサイズはこんなもんやったから、これ仕入れとこ」という感じで、身近な人のために商売をしていたし。EMMA COFFEEも2階の仕事場も、その延長ですね。
── ターゲットになる人は、どんな人ですか?
クリエーターとして独立し、責任をもって仕事をしている方ですね。あと、クリエイティブで「なんかおもろいな」っていう人いるじゃないですか。そういう人が来てくれたら何かが生まれて、結果的にこの辺りがおもろくなるんじゃないかと思っています。
豊能町を離れていた時期もあり、もともと「町おこし」に興味があったわけでもないんです。でも6年前に帰ってきて、中西商店の歴史を知ってから考えが変わりました。
もともと中西商店も人が集まる場だった
── 中西商店の歴史って?
中西商店は曽祖父がはじめ、僕で4代目になります。昔、この辺りは何もなかったので、地域の人が必要なものを売っているという感じでしたね。
僕が子どもの頃の記憶ですが、特に買うものがなくても近所のおっちゃんが集まってきて、レジ前のストーブを囲んでおしゃべりをしているような場所でした。
だから、EMMA COFFEEをやり始めたとき、近所の人からは「ここはカフェをやる前から、カフェみたいなところやった」って言われました(笑)
──「場所づくり」がメインでEMMA COFFEEをはじめたってことですか?
そうですね。でも、コーヒーはもともと好きなんですよ。豊能町に帰ってくる前は、カナダのコーヒーショップで働いていて。そのお店はただお客さんがコーヒーを飲みに来るだけではなく、生活の一部になっていて、人と人がつながるような場所でした。6年前、父が余命わずかと分かり、コーヒー好きの父のためにEMMA COFFEEを始めました。そして、「あそこに行けば誰かに会える」という場所にしようと考えました。
「僕はこんなん好きです」に、いいなぁと思ってくれる人が来てくれたら……
── 改装後のコンセプトは、カフェや仕事場などが有機的につながる「公園」としているんですね。
僕自身、公園が好きなんです。公園って、みんな好きなことをやっているじゃないですか。ランニングしたり、おしゃべりしたり、本読んだり、ボーッとしたり、編み物をしている人もいるし。そういった場所をつくりたかったんです。
── 誰もが気軽に立ち寄れる「公園」ですが、「身近な人のために」というのも特徴ですね。
実は、この建物は結構チャレンジングな建物で(笑)。外気温にめちゃくちゃ影響を受けて、快適な設備がないというか。でも、快適な設備を省いて、それ以外の気持ちよさをとろうと思っています。例えば、「空が見えて気持ちいいな」「窓を開けていたら風が入ってきて気持ちいいな」とか。そこをわかってくれる人が集まる場所になればと思います。
── 好きなものが似ている人が集まってくるイメージでしょうか?
誰でも楽しめるということではないかもしれません。実際にEMMA COFFEEのお客さんでも、改築している建物を見て「めっちゃいいやん」って言うてくれる人は2割くらいですから(笑)。ここは立地が良いわけではなくて、わざわざ来てもらわなくてはいけないので。だからこそ、「僕はこんなん好きです」と、はっきり伝えていた方が良いと思っています。
色を決めてから、ゆっくりと活動を広げていく
── 仕事場はどんな感じでスタートするのですか?
最初は利用しやすい料金での会員制にしようと思っています。そんなに広くないので、使えるのは10人くらいだと思います。
できれば、「こういう人が集まる場所なんだ」っていう色を決めたいですね。だから、まずは僕が声を掛けた人たちに使ってもらい、色々とフィードバックを確認したうえで、少しずつその輪を広げられたらな、と。これから半年から1年は「色付け」の期間になります。
── 色付けができると、その色に近い人たちが集まってくるということですね。
そうですね。人づてに、おもしろいコミュニティができ、人が豊能町に集まる。そうなると、結果的に町おこしにもつながるんじゃないかと思っています。
── 何も知らない人がふらっと来て「おもろさ」に気がつくっていうのもアリですか?
例えば、中庭で時々イベントをやって、そこで偶然コーヒーを飲みにきた人が「あ〜、こんなおもろいことしいてるんやぁ」って思ってくれたらいいですね。
既におもろいことが生まれているEMMA COFFEE
EMMA COFFEEには日々個性豊かな人が集まり、イベントも多種多彩。自転車で世界一周している夫婦によるトークイベント、芦屋在住の美容師による出張ヘアカット、移住希望のあるお客さんへの古民家の紹介など……。
ここからは、EMMA COFFEEの常連(=おもろい人)の立花之輝さんと長屋公美子さんにも加わってもらい、さらにお話をお聴きしました。
── 既にEMMA COFFEEからおもろいことが生まれて、町おこしにつながっている感じですが。
中西さん:僕はコーヒー屋をしながら中西商店を継いだので、ここを何とかしないといけなくなって。それでも自分の好きなことを続けていたら、たまたま結果として町おこしにつながったのかもしれません。
長屋さん:中西さんは人をひきつける魅力があると思います。グイグイ来る「PUSH」タイプではなくて、「PULL」タイプというか。品も良いし、エレガントさを感じます。やっぱり100年もここで商売をやってきたところから、引き継がれた何かがあると思いますね(笑)
中西さん:父親は店を継げとは言わなかったですね。EMMA COFFEEは父親のために始めたので、喜んでくれるように、レコードプレーヤーを置いて、父親が好きなレコードをかけて。
長屋さん:すごいおしゃれなレコードジャケットが飾ってあって、「豊能町でこんなことをやる人がいるんだ!」って驚きました。
中西さん:父親はオープンして半年後に亡くなったのですが、毎日店内でコーヒーを飲みながらのんびり過ごしていました。すると昔の仲間が集まってきて、コーヒーを片手に「あ〜、このジャケットなつかしいな」って話していて。それだけでEMMA COFFEEの目的は半分達成したって思ったんです。
仕事場も方向性は一緒で、本当に身近な人のヒットを狙っていく感じですね。
立花さん:EMMA COFFEEのおしゃれな感じと、隣にあった昔ながらの中西商店とのギャップがなかなか良いなと。しかも若いオーナーだし、何かはじまるんちゃうかなって(笑)
中西さん:何も宣伝していなかったので、「こんなところに人来るかなぁ」って思っていたら、立花さんがしょっちゅう来てくれて。色々な話をしてアドバイスをもらい、知り合いも増えました。
── やっぱり、ここが人と人がつながる場・機会になっているんですね。
長屋さん:私も色々な人の話が聴けるので、夕方になるとこの辺りに来たりしますね。
立花さん:狭い田舎だけど、偶然誰かに会って話をすると、何かが生まれる。それがおもろい!
中西さん:本当に、おもろいとしか言いようがないです(笑)
これまでの歴史に敬意を払いつつ、新しい形をつくる
── EMMA COFFEEで人とのつながりが増幅していく感じですね。
立花さん:増幅し、できれば仕事につながったらと。良い循環が生まれるといいですね。
例えば、誰かが抱えている問題が「それなら常連の〇〇さんが得意だ」と解決につながったり。今よりもさらに地域に貢献できる場所になると思いますね。
中西さん:田舎だからできることというか。
だから、ホームページには仕事場のことを「ワーキングスペース」って書いています。いわゆる「コワーキングスペース」とは違うかな、と。
── じゃあ、「地に足のついたワーキングスペース」ですね。
中西さん:そうですね。だからこそ、時間をかけてリノベーションをしたのはよかったと思います。正直に言うと、この建物には執着がありませんでした。でも、手をかけると色々見えてくるものがあります。曽祖父は20歳で中西商店を創業し、50歳の時にこの家を建てたんです。「30年頑張ったんだなぁ」と思いましたね。
立花さん:先祖の想いと対話しながらやっているんですね。
中西さん:90歳になる祖母は、中西商店の店舗がどうなっているかを知らないのです。
その祖母が、手術を受けて大変なとき、「信ちゃんたちがお店をきれいにしてくれて、みんながよろこんでいる。ありがとうって言うているよ。」って、母親に言ったそうなんです。手術したあと一度向こう側に行って、先祖から話を聞いたのかなって(笑)
立花さん:昔のものに敬意を払いながら、新しいことをしようとしている姿に、ご先祖さんは喜んでいると思いますね。
長屋さん:先祖が今までやってこられたことへのリスペクトも、大事だと思います。
中西さん:今を生きている者が、良い形に変えて、つないでいかないといけないと思いますね。
この辺りでは、昔から「中西商店」ではなくて「中西さんとこ」って言われることが多くて。顔が見える感じがして、すごくいいと思うんです。だから、2階の仕事場も、ゆくゆくは「中西さんとこに頼もう」って思ってもらえるような場所になれば嬉しいです。
中西さんは「自分が町おこしなど大それたことはできない」とおっしゃっていました。しかし、先人の積み重ねにしっかりと敬意を払いながら、新しい形で「場」をつなごうとしている姿が、とてもまぶしかったです。そして、新しい「中西さんとこ」が、次々と「おもろいこと」が生まれ、地域に役立つ場所になっていくのだろうなと思いました。
◆ このプロジェクトの連絡先
中西商店 |EMMA COFFEE 代表 中西 信一朗さん
住所: 余野172-5
Tel: 072-739-0789
◆ SUPPORT – 応援おねがいします
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取材日・2021/02/13
文・北川淳也
写真提供・中西商店