「なーんか聞いたことあるな『Good_at』プロジェクト」なんて町民も多いんじゃないでしょうか。それもそのはず、町の広報紙に何度も掲載された、豊能町が力を入れている応援事業なんです。
この活動は、通常学級の約6.5%*を占める「発達の凸凹(でこぼこ)」を抱える子どもたちに注目。子どもたちの可能性を信じる大人たちが集まって2019年よりスタートした取り組みです。
町広報掲載当初、町外からもたくさんの反響と申込があり「さあやるぞ!」と実施の間際になってコロナ禍、緊急事態宣言……。再開の目処も立たず中断していました。そんな中「ぜひ実施を」と望む声も多く、満を持していよいよ動き出すようですよ!
第一回目はプログラミングがテーマ。大村さん(写真中央)のほか、「リィーノこどもセラピー」の中西さん(作業療法士・写真左)、「大学堂株式会社」の宇都宮(プログラマー・写真右)が講師となりサポート。
※広報とよの 令和2年2月号(No.537)に掲載された特集記事のインタビューはこちらから。
発案者である大村みどりさんは、豊能町光風台で初心者向けパソコン教室を経営して9年目。子どものためのプログラミング教室「ひなたぼっこ」の先生でもあります。
「うちの教室はゆるゆるだからなぁ〜(笑)」肩の力がふっと抜けるコメントで始まったZOOMインタビュー。大村さんを前にするとおとなも子どもも素直になれちゃう、そんな魅力があるんだよな……。
大人からは《与えない》。そうすれば子どもは輝きだす。
集中が続きにくい、すぐ癇癪(かんしゃく)を起こしてしまう、しゃべらない、集団になじみにくい。これは「発達凸凹」さんの一例です。
筆者:発達に凸凹がある子たちに、なぜ向き合おうとしたのですか?
大村さん:こういった特徴のある子たちは、従来の教育方針《みんなと同じペースでこれをやりましょう》になじめず、時には叱られたりしてしんどい思いをすることが多いんです。
でもね。プログラミングに取り組む姿は、本当に?と思うくらいキラキラと魅力的で。
筆者:なるほど。この子、そんなに困った子かな?という。
大村さん:発案の原点は、子どもたちのキラキラした輝く姿なんです。自分のやり方・自分のペースが許される場、叱られず安心できる環境を整えてあげれば、もっとこの子たちの可能性を広げてあげることができるんじゃないかと。
「大人が与えない場所」は意外と見つからない
《みんなと同じ》《これをやりなさい》という枷(かせ)を外してあげたら、とことん探究し熱中しはじめた子どもたち。その顔はどれもイキイキしているのだとか。保護者の方からは「好きなことになら、こんなに集中できる子だったんだ」「他の習いごとは嫌がるのに、ここだけは自分から『行きたい!』と言うんです」と驚きの声が寄せられることも。
自分が作ったゲームが動きだす瞬間は、うれしくて楽しくて思わずほっぺが上がって「かまぼこ」みたいな目になるんですよ、と両手で半月の型を形取りながら教えてくれました。
市販のゲームとは違い、自分でつくったゲームが思い通りに動きだすという体験に興奮MAX状態になる子も多いのだとか。
筆者:Good_atプロジェクトは、大村さんの教室で採用されているやり方や考え方をベースにしているんですよね。教室ではどういったルールや工夫で運営しているんですか?
大村さん:うちの教室はゆるいんです。席だって「好きな席にどうぞ」と自分で決めてOK。今日何をやるか、どこまでやるかも全部自分で決める。子どもたちが自分の意志で決めています。
最低ルールは3つ。あとは大人が《見守る》だけ。
「何やってもOKだよ〜♪」という自由は、まるでパラダイス。暴走すると無法地帯になりかねない?……いえいえ、考えれば考えるほどバランス取れてるんです、これが。
自分で決められる自由には、自分はどうしたい?と「自己に問う」工程と「自分が決めたんだから」という責任も必ずセットで付いてきます。けれど、その責任が重圧になるとは限らない。だって「決めたことを変える」こともまた自由なんですもん。
一度決めたことをきっちり順守するか、それとも決断をあっさり変更するか、すべて子どもたち自身に委ねられています。
ほかの教室では、思い通りにならなくて癇癪を起こしてしまう子でも《全部自由》な方針なら、心のバランスが取りやすいのかもしれない。
筆者:「好きにしていいよ」の方針で、かえって困っちゃう子はいないんですか?
大村さん:「自分で好きな席にどうぞ」の段階で、どうしたらいいか分からず固まってしまう子もいますよ。でもだんだんとこのスタイルに慣れていってくれます。いまだに「〜していいですか?」と確認しに来てくれる真面目な子もいますけどね(笑)
筆者:性格が出るんですね、かわいい(笑)
大村さん:教室で守らなければならない最低ルールは、「周りに迷惑をかけない」「自分や周りを傷つけない」「命に関わることはしない」、の3つだけ。あとは自分たちで考えてやってちょうだい、と子どもたちにまかせています。
家庭では難しいからこそ
子どもにまかせる……これ、頭ではわかってても家では無理なんですよねー!時間がないから親がやっちゃう、まかせると言うたくせに最後までまかせない、わが家では思い当たるフシがありすぎて。
小学生ママの大村さんもおうちだと同じ状況だそうで、教室でのご自身の姿は「初孫をかわいがるだけのおばあちゃん」と例えます。
子ども達の「うまくやっていく」力を育む
とはいえ、幼い子ども同士。これは迷惑にならないだろう、とやったことが、隣の敏感な子のストレスになったりしないのだろうか。
筆者の質問に大きくうなずいた後、わたしは何にもしないんです!そのときは子どもたち同士が解決してくれるんです!と大村さん。
何もしない!となぜか誇らしげに語る姿に思わず笑ってしまいました。子どもたちのことを本当に信用しているんだなぁ。
例えば、大きな音で制作していた子に対して、誰かが「静かにして」といえば全員いそいそとイヤホンを付ける。しかし別の日、まったく同じ環境でもだれも何も言わない。その時はガヤガヤした環境でみんな没頭しているんだとか。
その日の状況によって、受け取り方も関係性も違うのだそうです。これは3つの最低ルールの柔軟さを素直に受けとめられる子どもならでは。この光景を見て「おぉ……自然と自治会ができている」と感じるそう。できるだけ口出しをしないよう、子どもたちの《うまくやっていく力》に頼ることにしていると言います。
お話を聞きながら、つい自分の子どもの将来を考えてしまいます。「Good_at」で自分の向き・不向きや特徴に向き合って、自分なりのトリセツを見つけ出してくれたら……という親ごころ。しかも楽しみながら、だなんてサイコーなのでは?
本来の姿を見つけ出してくれる理解者の存在
ぜーーんぶ自分で決める、大人は見守るだけ。この考え方のアプローチにすることで、発達の凸凹に悩む子たちにどんな変化が生まれたのか、一例を教えていただきました。
- すぐに癇癪を起こすと思われていた子は、途中でつまずいても「もういい、自分で考える!」爆発しそうになる気持ちをぐっと抑えられた。これを聞いたママは、途中で投げ出さないこと、自ら対案を考え出したことに驚かれたのだそう。
- しゃべらないと思われていた寡黙な子も、自分のパソコンを前に「ケケケ♪」と楽しそうに笑いだした。
- 荒っぽく大雑把に見えていた子は、アニメーションの書き起こしという地道な作業を誰よりも丁寧に取り組み、職人のような細かな一面を見せた。
プログラミングは理系の《得意》を見つけるアプローチと思い込んでいたけれど、アートなどのクリエイティブ・想像性も含まれているんですね。
ママたちの「そうなんです!」のひと言
困った子、と誤解されがちな子の普段見えない、長所であり《得意》なところ。
保護者であるママに《得意》を伝えると返ってくるのは「そうなんです!」のひと言。今までなかなか分かってもらえなかった、わが子の良いところ。保護者以外の第三者が長所を見つけ出し、可能性を伸ばそう!と共に歩んでくれる。理解者の存在と喜びは如何ほどのものなんだろう。
こだわり続けた「無料で、ここ豊能町で」
ここまで聞いて、あれ?とひとつの疑問が。「これって全部『ひなたぼっこ』さんで良くないですか?」豊能町とともに3年間もGood_atを温めてきた大村さんに、核心をつく疑問をぶつけてみた、つもりだった。
「プログラミング教室って一般的に見てとても高額なんです、もちろんうちも。」教材、アプリ、各種アップデートに合わせたデバイスを複数台……うん、たしかに高くなるのも無理はない。
営利を考えると有料にせざるを得ない。でも有料になった途端に、大村さんが守りたい理念《やりたい時に、自分のペースで、のびのびやりたいことをする》が揺らぎ始める。
ママなら想像がつくんじゃないでしょうか。お月謝払ってるから行きなさい、と強制してしまう。毎月これだけ払ってるのに全然上達しないな、と思わず成果を求めてしまう。無料だったら「お好きにどうぞ」がニッコリ許容できる。楽しんでるならいいか、なるようになるさ、ケ・セラ・セラ。
筆者:じゃあ、Good_atはずっと無料なんですか!?
大村さん:「無料で、ここ豊能町で」この2つの条件は当時から強くプレゼンさせていただいたんです。どこまで無料でやり続けられるかは分からないですけれど、こだわりたいですね。運営のしくみ作りも含めて今後の課題です。
我流・独学で進めてきた「ひなたぼっこ」の良い部分を抽出して、発展を目指したのがGood_at。大村さんの考え方に共感した教育の専門家、プログラムの専門家が続々とジョインしたのでした。
夢は、ふらっと立ち寄れる常設施設
筆者:以前の記事で触れられていた、常設施設の将来像について聞かせてください。Good_atが常設施設になることでどんなメリットが考えられますか?
大村さん:ただの居場所なら公園でいいんです。雨風がしのげて、相談できる大人がいて、子どもが安心して過ごせて、親も安心して預けられる、児童館みたいな場所が豊能町に欲しいんです。
筆者:いいですねぇ。
大村さん:無料だから、放課後ふらっと立ち寄れることができて、行けば誰かがいる、行ってもいいし・行かんでもいい。そんな場所……やっぱりおばあちゃんちみたいな(笑)。拠り所のような良さはイベント形式では出せないんですよね。
最後に、よくある質問に答えていただきました。
Good_atの対象は?年齢や条件はありますか?
初回テーマは「プログラミングワークショップ」。そのカリキュラムが小学校中学年〜高学年向けではありますが、将来的には中高生以上も対象にしたテーマも視野に入れています。
受講にあたって診断や手帳は必要ではありませんが、「発達の凸凹」に悩む子たちが安心して過ごせる場所として運営したいと思っています。
町のみんなにどんな応援を求めていますか?
「枠にはまるのが苦手な、何か《得意》を持っている大人」を募集しています。住民みんなが、自分の《得意》を持ち寄ってできあがる、そんなプロジェクトを目指しています。
あとは子どもたちが無料で受講できるためのご寄付です。寄付できる仕組みづくりは、運営していきながら考えていきたいと思っています。
◆ Good_atプロジェクト 連絡先
MAIL:good.at.toyono@gmail.com
LINE:@943yhfje
◆ SUPPORT – 応援おねがいします
- 《得意》を持っているおとな
- 活動資金のスポンサー様
取材日・2021/03/05
文・宇都宮頼子
*文部科学省が平成24年に実施した「通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査」の結果