豊能町には、住んでいない。
けれど、豊能町で、仕事をしている。
朝、車で通勤し、夜、車で帰宅する。
曲がりくねった道を、通って。
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ビートルズの「ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」は、別れと願いの歌だ。
ポール・マッカートニーがこの曲を歌った時、ビートルズは崩壊する直前だったと言われている。メンバー間のたび重なる軋轢やグループへの倦怠感とアルバム作りへの情熱の喪失など、この時期の曲には、初期の頃のフレッシュな感覚や斬新的なアイディアなどが希薄で、この曲が収録されたビートルズの最後のアルバム「レット・イット・ビー」のトーンは、印象としてどんよりとして暗い。
その中でポール・マッカートニーは、半ば諦めるようにこの曲を歌った。こんな歌詞だ。
The long and winding road that leads to your door
きみの扉へと続く、長く曲がりくねった道のり
Will never disappear
それは決して消えることはない
I’ve seen that road before it always leads me here
ここに来る前から僕にはその道が見えていた
Lead me to your door
きみのところへ僕を導いて
The wild and windy night that the rain washed away
激しい風の吹く夜は、雨が洗い流したのに
Has left a pool of tears crying for the day
その日のために流した涙は溜まって、あとに残った
Why leave me standing here, let me know the way
どうして僕を置いていくの? 進むべき道を教えてよ
Many times I’ve been alone and many times I’ve cried
何度も一人ぼっちになって、何度も涙を流してきた
Anyway you’ll never know the many ways I’ve tried
そんな僕の歩んできた努力の道のりを、きみは知らない
And still they lead me back to the long and winding road
そして僕はまた長く曲がりくねった道に戻ってくる
You left me standing here a long, long time ago
僕はきみに置き去りにされたんだ もうずっと、ずっと前に
Don’t leave me waiting here, lead me to your door
このまま放っておかないで、 きみの扉まで連れていって
But still they lead me back to the long and winding road
でも僕はまた、この長く曲がりくねった道に戻ってくる
You left me standing here a long, long time ago
僕はきみに置き去りにされたんだ もうずっと、ずっと前に
Don’t keep me waiting here (Don’t keep me wait), lead me to your door
置いていかないで(放っておかないで) きみの扉のもとまで連れていって
The Long And Winding Road The Beatles Lennon/McCartney 1970
ポール・マッカートニーはこの曲を27歳で書いた。この曲は、本人の意図とは異なる、壮大なストリングスと女性コーラスでアレンジされた美しい旋律を持つバラードの傑作だ。中学の頃から何度聴いてきたことだろう。聴くたびに何にもまして驚くのは、こんなに老成し、成熟し、長い人生の道のりを暗喩的に表現する曲を、27歳の若者が書いたという事実だ。長い間、ずっと、そう思っていた。
しかし、近頃はそうじゃないのではないかと思うようになった。むしろ、若者にしか、こうした曲は書けない、いや、そうではなくて、若者だからこそ、こうした別れや切ない願いを美しい旋律に込めることができるのではないかと思うようになったのだ。
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私たちのブランドメッセージは、こうだ。
ただいま。収穫した野菜をのせた軽トラックを、
挽きたてのコーヒーが迎えてくれる。
ただいま。大空を自由に飛び回った鳥たちが旋回し、
その翼を休めようと森の奥へと消えていく。
ただいま。坂道をカーブして子どもたちの姿がなくなって、
笑い声だけがまだかすかに聞こえている。
ただいま。山間を走る電車が右に左に揺れるたびに、
仕事で疲れた心が解きほぐされていく。
ただいま。遠い地で夢を見つけて帰ってきた青年を、
あの時と変わらない澄んだ空気が包んでくれる。
ただいま。初めて訪れた場所なのに、
どこか懐かしくあたたかい気持ちになれる。
このまちは、いくつものやさしい「ただいま」で溢れていて、
そのすべてが、もっとやさしい明日へとつながっている。
そして、大切なものだけに囲まれたていねいな暮らしの中で、
自分らしさを見つけたり取り戻したりする人がいる。
さぁ、「ただいま」から始めよう。
曲がりくねって、ただいま。
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トヨノノレポーター講座第2回目の講師だったクリエイティブディレクターで交野おりひめ大学総合プロデューサー(当時)の甲斐健さんが作ってくださった、ボディーコピーがポスターとともに発表され、初めて読んだ時に、その表現が映像になって、すっと、目に浮かんできたことを覚えている。
かつての若者は、曲がりくねった道を通って、生活者になった。
シンプルな暮らしの明るさを楽しむ術を学び、「ただいま。」と言えるようになった。
生活者は暮らしの中に明るさを求め、光を必要とする。ささやかな暮らしの中にこそ、かけがえのない光や喜びを感じることができるように成長していくのだ。まるで、わずかな光を、きらめく輝きのように感じる器官が、体内の一部分で発達していくように。
あなたの「曲がりくねって、ただいま。」は何ですか?
4 comments
おお・・・ビートルズにこのような曲が!?
最近、ビートルズやカーペンターズなどあらためて(いいなあ~)と車の中などで聴くようになりました。
うちにもどこかに曲があったかも・・・探して聞いてみます☆
The long and winding road・・・まさに「曲がりくねって・・・」ですね(^_^)
とよレポみほ☆さん、
コメントをくださってありがとうございます。
ビートルズを引き合いに出すのは、少々振りかぶり過ぎのような気もしますが、でも、この若者と生活者の解釈で、甲斐さんが書いてくださった素晴らしいボディコピーと僕の中では繋がっています。
カーペンターズもいいですね✨
自分は初めて豊能町に来た時、子供の頃に読んで好きだった本「霧のむこうのふしぎな町」のイメージが重なったのを憶えてます。
それぞれの「曲がりくねって、ただいま。」いいですね。
いろんな人のイメージを聞いて見たい気がします。
YASUTさん、コメントをくださってありがとうございます。
「霧のむこうのふしぎな町」、児童文学ファンタジーの傑作ですね。
私は読んだことがないのですが(^^;、こうした思い浮かぶイメージがみなさんそれぞれにあるのは楽しいですね✨