突然彗星のように募集が開始され、短期間ですぐ定員が埋まった── そんな「まちラボ+TOYONO」vol.2 を知っていますか。
わたくし、ラッキーなことに「まちラボ+TOYONO」に同席するお役目をいただき、授業のたび有益な内容を毎回メモしまくっているのですが、本プロジェクトは、知りたい人へ広く届けるべき知識であり、残すべき過程であると感じ、記事として残しておきます。
「まちラボ+TOYONO」って?
豊能町と関係がある方、学生を対象とした地域課題解決アイデアソンプログラムです。デザイン思考を学びながら、豊能町の地域課題に実践型のグループワークで取り組みます。
vol.1の様子はこちらから→【活動報告】まちラボ+TOYONOを実施しました!
主催の名は。
「まちラボ+TOYONO」の主催は、大阪大学先導的学際研究機構 住民と育む未来型知的インフラ創造部門(略称:大阪大学FICCT、FICCT)。私は恥ずかしながら今回初めてお名前をお聞きしたのですが、まずはですね、私がハートを貫かれたFICCTのミッションステートメントを紹介させてください。
過酷な環境でも命を預けることができる科学技術をコアに住民から信頼される社会基盤を創り、住民と共に“育む”未来型知的インフラを創出する
公式サイトより
めちゃくちゃ頼もしくないですか……/// 一節ごとに区切って、何度か読み返してしまったくらいキュンと来る知性のマッチョイズム。
もう少し公式サイトを読み進めてみますと、FICCTには2つのコンセプトがあるそうです。
- 若手研究者の自由な発想を、地域のリアルな課題解決へ
- 産学官民の持続可能な共創の場(共創ラボ)を構築
つまりはですね。将来有望な研究員たちが、これまで人生かけて培った英知をひっさげて正面から取り組んでみるから、行政も地元企業も住民も一緒になって《本当に続けられる課題解決の方法》を探してみません?と開かれた機関であることがわかりました。
じつはFICCTのみなさん、これまでも豊能町を拠点に第一線の研究と実証実験を進めてくださってるんです。町民が現在困ってる地域課題だけでなくまだ”課題”と一般認知されていない分野にも注目。有識者の研究を集約させて、いち早く取り組んでくれていたこと、ちゃんと知ってましたか?(私はさきほど知りました。)
◆
これって本当にラッキーなことだと思うんです。
私たちの豊能町は、消滅可能性自治体だわ過疎地域と指定されるわ財政難だわ、踏んだり蹴ったり──……ではないんですよね。
日本全国が少子高齢化になる未来を見据えた視点なら、地方自治体が行き着く先の「時代の最先端を走っている」と言えるのかもしれない。また別の視点では、豊能町よりももっと規模の小さい、なのに実証実験まで手が届いていない、そんな自治体はまだまだあるわけで。豊能町の実証実験がきっかけで、境遇が似た町や農村地区のなにかの助けになれるかもしれない。
豊能町にそんな可能性を感じているからこそ、有識者の方々が「まずは豊能町」と選んでくれたのだと思っています。
地域課題解決アイデアソンプログラムvol.2 開講!
学生&大人混合の約15名で始まった、本プログラム。「アイデアソン」と付いているものの、短時間でアイデアを競い合う一般的なアイデアソンをイメージすると少々面くらうかもしれません。
座学あり・フィールドワークあり・プロトタイピングあり・メンターセッションあり、全7回に及ぶ約3ヶ月間のプログラムは、瞬発的な着想を競うのではなく、受講者の血肉となる学修や研修をベースにした組み立てになっており、さすが阪大といった内容です。
大人は黙って「アンラーニング」
よーし学ぶぞー!と意気込んだところに、講師の中村 昌平先生から告げられたのは「アンラーニング」、つまり、今まで学んだ知識や常識を意識的に捨て去ることが重要だと言います。
「VUCA(ブーカ)」「厄介な問題(Wicked Problem) 」など聞き慣れない専門用語を出しつつ、すぐにはイメージしにくい概念を、身近な日常シーンや現代ニュースに当てはめながら丁寧に解説してくれます。
これまでモヤッと肌感覚で感じていたことの数々が、研究者間ではよくあるケースとして言語化・定義されていて、それをひとつひとつインストールしていく感覚は、答え合わせのような気持ちよさがあります。思わず赤べこのようにヘッドバンギングする筆者。
石橋を叩いて進む「デザイン思考」
今までのパターンがはまらなくなった、複雑な現代に有効とされているのが「デザイン思考*」。本プログラムは、この「デザイン思考」を軸に工程を進めていきます。
*気になる人は「デザイン思考 5段階プロセス」で検索してみよう!
すぐに仮説・アイデア(創発)と進めるのではなく、まずはじっくりとアンテナを研ぎ澄ませて事実や気づきを集めることが大事だと言います。体にたたき込むように、繰り返し現在地を確かめながら進んでいきます。
ちなみに、比較的よく耳にする「気づき」という状態も、デザイン思考を進めるファーストステップとして大変重要とのこと。参加者たちは講義の時間以外でも、日々の筋トレのように1日1回は「気づき力」を高めるようにと宿題が出ています。
あーはいはい、「気づき」ね。簡単簡単〜♪などと高をくくっていたのですが、これが案外むずかしい……。長年の思考のクセ・どこかで見たり聞いたりした事例・人より優位に立ちたいなどのプライドが邪魔をします。
「気づき」とは
× …自分の考え方を起きている事実に当てはめる
○ …起きている事実から、自分の考え方が変わる
ゲームやチームスポーツの手法で脳を活性化。意欲をくすぐるしかけ
本プログラムでは、基本毎回長時間の座学になるわけですが、集中力が途切れない絶妙のタイミングで、ワークショップやゲームが織り交ぜられているのも魅力です。
中村先生は大学研究員のほかにも、サッカー教室の経営とコーチもされているそうで、チーム力の高め方やモチベーションの高め方が、自分が過去受講した「ザ・大学講義」とは毛色が違い、とても先進的。
年齢も職種も国籍もバラバラの15名の参加者たちは、中村先生の熱意あるロジカルな方法で、言われるがままに楽しんでるうちに結束力が自然と強まっていくようです。
プレゼントワークショップ〜最高のバッグをあなたに〜
初日の最後は、毎日持ち歩くバッグを贈るプレゼントワークショップが行われました。デザイン思考の一連の流れを体験できるワークショップです。
- 2人1組になって、15分のヒアリング。「今のバッグの不満な点」「どんなバッグが欲しいか」などの会話を通じて、言葉だけでなく、歯切れの悪い言い淀んだような非言語的な部分も含めて、まずは事実や気づきを集めます。
- 対象者本人でさえ、自分の考えや課題を正確に把握できていないケースもあるので、想像したり、自身の知見も交えて仮説を立てます。
- 受け手は、どういう価値を欲してる?贈り手は、どういう価値を届けたい?ひとことで説明できるコンセプトを導き出します・
- いよいよアイデアを試作(プロトタイプ)。ただしテーブルに用意されているのは、色画用紙・ハサミ・セロハンテープ・スティック糊のみ。
- デザインのプロセス、コンセプト、試作品を対象者に提案。アイデアの正しさを主張したくなる気持ちを抑えて、インタビューしフィードバックを聞きとります。
- フィードバックからさらに気づきを導き出し、改善版を作成。
プロトタイプにまで落とし込んでいることもあり、“自分の解釈が正しい” 呪縛から抜け出しにくく、ここでもやはり「気づき」の難しさを痛感しました。もう一回貼っておこう……。
「気づき」とは
× …自分の考え方を起きている事実に当てはめる
○ …起きている事実から、自分の考え方が変わる
立体的な情報を立体的なまま観察するフィールドワーク
1週間後に行われた2回目の講義は「フィールドワーク」がメイン。日々過ごしている町のフィールドワークは特に難しく、”凪”に感じやすいもの。脳が疲れないようにノイズに慣れる ──そんな人間の機能的な部分を、意識的に外して情報を収集する訓練です。
フィールドワークを行った後は、地元の方々にインタビューし、この町の特徴、住んでる人の価値観、ありたい姿、あってほしい町の像を理解してください、とのこと。
なお、フィールドワーク時の注意点はこちら。
- 対象者と信頼関係(ラポール)をつくる
- 観察中は「掃除の人」のように目立たない
- 言語情報だけではなく非言語情報を集める
- 対象者をこちらの価値観でジャッジしない
- 矛盾して見える事実も排除せず両方受け止める
ちなみにわたしはこの日、80年代SFが描く未来人のような銀色のダウンジャケットを着ており、「掃除の人にまったく見えない」という痛恨のミス。
いよいよ光風台コース・東ときわ台コース・ときわ台コースに分かれてフィールドワーク開始です!
フィールドワークで面白かったのは、地元で育った高校生は「空き家は(普段から)そんなに見当たらない。あったっけ?」と言い、町外の大人は「手入れがされていない庭が目立った。空き家だろうか」と言い、着眼点がまったく矛盾していたこと。まさに中村先生の仰る「矛盾して見える事実も排除せず両方受け止める」事案だな、と。
◆
……とこんな感じでプログラムは現在進行中。次回は、中村先生いわく“アイデアよりも重要な”「課題の定義」へと進みます!
さいごに
豊能町はお誂え向きに、公共施設再編や廃校利活用と再構築できるチャンスが控えており、神がかったタイミングでの今回のアイデアソン、連携しない手はないのでは?と個人的にも思うんですよね。
みんながこの知識をシェアできたら、もっと未来にピントが合うかもしれない。そんな期待もしながら引き続き学んでいきたいと思います。